日本企業では、不正の告発よりも通報者の個人的な不満を多数受信している可能性。「内部通報制度の整備状況に関する調査」より

デロイト トーマツ リスクサービスは2018年10月、「内部通報制度の整備状況に関するアンケート調査」を発表した。本調査は、同年6月に同社主催セミナーに参加した、経営企画/総務/法務/内部監査/国際管理の担当者および、内部通報サービスに関心のある企業の担当者を対象に、インターナット調査をしている。有効回答は330社で、うち約8割となる266社が上場企業。


『グローバル内部通報の状況』

【海外進出推定企業における海外通報窓口】
  • 国内用のみ……36.5%
  • 海外用窓口がある……53.5%
  • 通報窓口はない……1.3%
  • その他……8.8%
【グローバル内部通報の運用有無】
  • 運用している……52.8%
  • 運用していない……41.5%
  • その他……5.7%


回答企業で海外に進出していると推定される企業のうち、海外からの通報を受け付ける窓口を有しているのは54%。海外通報の窓口の設置は道半ばだが、特殊な状況で窓口を設置しているその他(9%)を加えると2017年(60%)より微増となる。

グローバル内部通報を運用しているという企業も、2017年とほぼ同様の比率となった。


『内部通報制度の高度化を表すと考えられる取組みの変化の度合い』
(※右数値は前年からの上昇値)
  • 外部窓口は顧問弁護士以外の事業者……54%(-8)
  • 通報の性質に応じて複数の窓口を設置……22%(-1)
  • グローバル統一で内部通報制度の規程や体制を定義……21%(-1)
  • 通報のエスカレーション判断は受信部署とは別機関……27%(+2)
  • 通報対応の意思決定機関に社外取締役、社外監査役を含む ……30%(-2)


総じて、上記5点の取り組みにおいては、明らかな上昇は見られなかった。

どの数値も日本企業における内部通報制度の高度化を測る上で、参考になる指標と考えられるため、日本企業の内部通報制度については、窓口設置は浸透したものの、その後の進化や改善が停滞している可能性がある。


『不正の告発を受信する比率』

〈国内の不正の告発受信比率〉
  • 直近1年で受信実績がない……80.5%
  • 全体の1割未満……13.1%
  • 1割以上……6.4%
〈海外の不正告発受信比率〉
  • 直近1年で受信実績がない……75.8%
  • 全体の1割未満……21.1%
  • 1割以上……3.2%


日本国内の通報に関しては、81%が直近1年間で不正の告発を受信していない。海外進出推定企業における海外通報においても、76%が直近1年間で不正の告発を受信していないと回答した。

このことから、日本企業の内部通報制度は、制度の本来の目的である不正の告発とは離れ、待遇や人間関係に対する通報者の個人的な不満を、多数受信しているものと推察できる。

このような状態が継続すると、通報者が不満の表明を行う場合も、公益通報者保護法により自分が保護されると誤解して通報対応に強い不満を抱く、あるいは、企業とのトラブルが発生する、といった弊害が懸念され、日本企業の内部通報制度の品質や信頼性が、徐々に低下していくことが予測される。


『グローバル内部通報制度における“リニエンシー制度”と“報奨制度”の導入状況』

【グローバル内部通報制度における“リニエンシー制度”の導入状況】
  • 設計もしくは導入予定……8.4%
  • 一部もしくは全拠点で導入・運用……12.6%
  • 検討していない……67.4%
  • その他……11.6%
【グローバル内部通報制度における“報奨制度”の導入状況】
  • 設計もしくは導入予定……4.0%
  • 一部もしくは全拠点で導入・運用……0.0%
  • 検討していない……87.9%
  • その他……8.1%


海外進出推定企業のうち、リニエンシー制度を導入する企業は13%にとどまり、報奨制度を導入する企業はないという結果であった。

リニエンシー制度(自ら不正を告発した者への懲罰の減免が検討される制度)、および報奨制度(通報者への謝金や昇給等の付与が検討される制度)の導入は、グローバル内部通報制度を構築・導入・運営する上で検討すべき課題とされている。

実際に米国では行政が内部告発者に対して数十億円にも達する高額な報奨金を支給する事例が報告されており、日本国内においても司法取引制度の実例が発生している。

企業としてこういった社会情勢に対応していく必要がある一方で、不正の主体者を許容することにつながるリニエンシー制度や、密告した者を報奨する制度が、風土や文化に与えるマイナスの影響を懸念する声も多くある。

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