人間らしく働くためのAI活用~人間とAIの協業スキームがイノベーションを生む! 失敗しないAI導入! 「3つのカギ」と「4つの視点」とは?
石角 友愛(いしずみ・ともえ)氏
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのGoogle本社で多数のAIプロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテックや流通AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手がける。シリコンバレー在住。
著書に『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)、『私が白熱教室で学んだこと』(CCCメディアハウス)など多数。
日米で大きな差がある「AIに対する正しい理解」。その原因は?
私とAIの出会いは、2010年にGoogle本社で「Googleショッピング」のクラシフィケーションシリーズのオペレーションを担当したことからでした。当時は、AIを学びたいという思いでGoogleに入ったのではなくて、ただ「Googleで働きたい」という思いだけで入社したのですが、たまたま機械学習のチームに配属されたことで、初めてAIと出会ったのです。
その中で、シリコンバレー最先端のAI(機械学習/マシンラーニング)というものが、どういう仕組みで動き、どうやって皆が使うのか、ということを、現場で叩き上げで学んできました。その後、シリコンバレーでスタートアップを2社経験し、2017年にパロアルトインサイトを起業したのです。
米国と日本で一番大きな差があると思うのは「AIに対する正しい理解」でした。
日本では、AIに対して「人類の脅威」ですとか「私の仕事を奪うんじゃないか」というような、すごく漠然とした「恐怖論」が先走っており、人間が当たり前に使う「データサイエンスを駆使したAI技術」という話が、ビジネスの現場でなかなか浸透していません。そして、AIを作る技術者側も、導入する経営者や現場の人に対して歩み寄りがあまりない。この乖離がすごく大きい、と感じていました。
日本に比べると、米国はこの乖離が大きくありません。それは、ソフトウェアエンジニアの8割がユーザー企業(AIを使う側)で働いているからです。日本はその逆で、ソフトウェアエンジニアの8割がシステムインテグレーターやIT企業(AIを作る側)で働いている。つまり、ユーザーの身近で「AIってこういうものなんだよ」と、ビジネス用語で分かりやすく伝える人が、日本にはいない。この理解を促すのが、私たち「AIビジネスデザイナー」の仕事でもあります。
「AIビジネスデザイン」とは何か
一般的に、企業がAIを導入する際、技術やプロダクト、ツールなど「ハード」の話から入ることが多いと思います。しかしそれでは、「課題解決ツール」としてのAI導入ではなく、「AI導入」のためのAI導入になってしまいます。「どうやってAIを導入するのか」の前に、「なぜAIを導入するのか」という「課題」を集める必要があるのです。
これらの「ビジネス上の課題」を仕分けして、優先順位をつけ、技術課題に落とし込み、デザインをして、AIを開発・導入することが大切なのです。
さらに、AI導入には2つの壁があります。「導入の壁」と「定着の壁」です。
システムが複雑になればなるほど、「導入の壁」は高くなります。そして導入した後に、現場の人が開発したシステムを使ってくれるかどうかが重要。便利だけど複雑なシステムを導入しても、なかなか現場に定着しないので「定着の壁」を越えられません。
ですので、UIひとつでも、実際のユースケースを現場で観察して、いかにフリクション(摩擦)がない形で現場の人に導入するか、というところまで考えてデザインする必要があります。
そこで我々はハーバード・ビジネススクールでクリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論」に基づいて、現場に足を運び、「この人は、どういうジョブを果たしたがっているのか」を観察した上で、最適なデザインでAIを作る。私たちは、ここに強いこだわりを持って取り組んでいます。
このように、「戦略デザイン」「プロダクトデザイン」「技術デザイン」「組織デザイン」をトータルで実現する人を「AIビジネスデザイナー」と呼んでいるのです。
ビジネスで実用化されているのは「局所的課題解決型AI」
では、「AIが人間の仕事を奪う」「人類の脅威になる」などのConfusion(混乱)は、なぜ起こるのでしょうか。それは、AIに関する「大前提」が知られていないからです。
AIには、大きく2種類あります。ひとつは「ANI(Artificial narrow intelligence:特化型AI)」。もうひとつは「AGI(Artificial general intelligence:汎用型AI)」です。
「ANI」は、画像認識AIやレコメンデーションエンジン、スパムフィルターなど、非常に局所的でピンポイントの課題を解決するAIです。
「AGI」は、まさしくターミネーターやスターウォーズのC3POのように「人間の知能(感情や記憶など)をどうやって再現するか」というもので、学問的にはANIとまったく別モノです。
ビジネスの現場で活用され、実用化されているのは、局所的課題解決型AI(ANI)です。これから私が話すAIも、「100%、ANIのことだ」という大前提でお聞きください。
これからのビジネスを勝ち抜くために、「AIと人間の協業スキーム」を構築しよう!
機械学習の大家である、スタンフォード大学のアンドリュー・ング(Andrew Ng)教授は、「100年前に電気の登場で全ての業界が変わったのと同じように、今日、AIが今後数年間に変革しない業界はないだろう」と発言しました。
GoogleのCEOも「AIは火より、電気より大事なものだ」と発言し、2017年に「AIファースト」という経営戦略を打ち出して、抜本的、根本的に会社の組織編制を進めています。
こうした背景からもうかがえるように、米国におけるAI(ANI)浸透率は、すでに37~40%に達している、という調査結果があります。別の調査によれば、日本のAI浸透率は、わずか1~5%だそうです。
米国でAIを導入している、これらの企業に特徴的な傾向として、「単純にツールを導入して終わりじゃない」ということが挙げられます。すなわち、自社でデータパイプラインを構築して、現場の人がAIを使いこなし、AIにフィードバックを与え、AIが人間によって学ぶ。「AIと人間の協業スキーム」が出来ているのです。
AIと人間の協業スキームを考える上で、それぞれが得意とするところを単純化したものが図表1です。
(図表1:当日の投影資料より)
青い部分が「人間が得意な領域」、黄色い部分が「機械が得意な領域」です。ポイントはこの緑色の部分で、「人間とAIが協業する領域」になります。AIを現場の人が使いこなすことで、人間とAIが学びあう「協業スキーム」を社内で作ること。それが、競合他社が持たない強みとなるでしょう。
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